一生の思い出になる、結婚式のプロフィールムービー。BGMには、二人の大好きなあの曲を使いたい。そう願うのは自然なことです。しかし、そこには「著作権」という、非常に大切な権利が関係しています。
本記事では、著作権の基本的な考え方から、「ISUM(アイサム)」の賢い使い方、具体的な手続きの流れ、そしてよくある疑問や注意点まで、専門的な内容を誰にでも分かるように徹底解説します。
結婚式ムービーと「著作権」の基本
「著作権」と聞くと、なんだか難しくて自分には関係ない、と感じてしまうかもしれません。ここでは、著作権という言葉自体になじみのない方に向けて、その基本的な考え方を、できるだけ分かりやすく解説していきます。
「著作権」ってそもそも何?
「著作権」とは、一言でいえば、音楽や小説、イラストなど、何かを創作した人(クリエイター)の権利のことです。プロフィールムービーのBGMでいえば、その曲を作った作詞家さんや作曲家さんの権利を指します。彼らが時間と情熱を注いで生み出した楽曲は、形のないものであっても、大切な「財産」です。
そして、その財産を守るためにあるのが「著作権法」という法律です。この法律は、クリエイターの努力や才能が正当に評価され、報われる仕組みを作ることで、文化が発展することを目的としています。
※参考:e-Gov法令検索.「著作権法」.https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048 ,(参照 2025-07-02).
結婚式のムービーで使用する曲が著作権に関わる理由
「でも、自分で買ったCDを家で聴くのは自由なのに、なぜ結婚式で使うと問題になるの?」と疑問に思う方もいるでしょう。その違いは、利用する場面が「個人的な利用」か「公の利用」か、という点にあります。
法律では、家庭内で家族と楽しむような個人的な範囲での利用(これを「私的利用」と言います)は、例外的に許可されています。しかし、結婚式は、家族や友人、会社の同僚など、不特定多数のゲスト(公衆)が集まる場です。そこで音楽を流すことは「私的利用」の範囲を超え、公衆に音楽を聴かせる権利、すなわち「演奏権」という著作権に関わってきます。さらに、その楽曲をプロフィールムービーにBGMとして取り込む行為は、元の音源をDVDなどにコピーすることになるため、「複製権」という権利にも関わります。結婚式でのBGM利用は、このように複数の権利が関係するため、手続きが必要になるのです。
知らないと上映不可になることも? 著作権手続きを怠るリスク
「手続きが面倒だから、黙って使ってしまえばばれないのでは……」このように考えてしまう気持ちも分かります。しかし、その選択は、思わぬトラブルを招く可能性があります。著作権の手続きを軽視した場合に起こりうる具体的なリスクを知り、手続きの重要性を改めて認識しましょう。
リスク1:式場での上映を断られる可能性
近年、コンプライアンス(法令遵守)を重視する結婚式場が非常に増えています。そのため、著作権処理が適正に行われているかどうかのチェックは、以前よりも厳しくなっています。一生懸命作ったムービーが上映できない、という悲しい事態を避けるためにも、事前の手続きは不可欠です。
リスク2:業者に制作を断られる、または追加料金が発生する可能性
信頼できるムービー制作業者は、著作権について正しい知識を持っています。そのため、著作権をクリアできない楽曲でのムービー制作は、依頼しても断られます。また「どのような曲でも使えます」と安易に謳う業者には注意が必要です。正規の手続きを踏まずに制作している可能性があり、後々トラブルになるかもしれません。
リスク3:最悪の場合、権利者から訴えられる可能性も
法律上、著作権を侵害する行為は、権利者から利用の差し止めや損害賠償を請求される対象となります。一生に一度の幸せな思い出が、後味の悪いものになってしまっては元も子もありません。法律的なリスクを回避し、心からクリーンな状態で当日を迎えるためにも、ルールを守ることが重要です。
曲の使用申請をするなら「ISUM」の利用がおすすめ
著作権侵害のリスクを避けて曲を使いたいなら「ISUM(アイサム)」の利用がおすすめです。ここでは、そのISUMの役割から具体的な利用方法、料金の仕組みまでを詳しく解説します。
ISUMとは
ISUM(アイサム)とは、一般社団法人音楽特定利用促進機構の略称。結婚式で利用される市販楽曲の、複雑な著作権と著作隣接権の手続きを、一括で代行してくれる組織です。
以前は、新郎新婦や事業者が、作詞・作曲家が権利を預けているJASRACなどの著作権管理団体と、アーティストやレコード会社の両方に、個別に許諾申請をしなければならず、非常に手間と時間がかかっていました。この煩雑な手続きを簡略化し、さらに気軽に、そして正規に音楽を使えるようにするために設立されたのがISUMです。
※参考:一般社団法人 音楽特定利用促進機構.「ISUMについて」.https://isum.or.jp/about/ ,(参照 2025-07-02).
ISUMへの申請は「登録事業者」が行う
ISUMへの利用申請は、ISUMと契約している「登録事業者」を通じて行わなければなりません。この「登録事業者」に当たるのが、結婚式場や、ムービー制作業者です。
ISUMを利用したい場合は、まず依頼するムービー制作業者などが「ISUM登録事業者」であるかどうかを確認しましょう。
楽曲の検索方法
使いたい曲がISUMに登録されているかどうかは、ISUMの公式サイトで誰でも簡単に検索できます。まずは「ISUM 楽曲データベース」と検索して、公式サイトにアクセスしてみましょう。サイトでは、曲名やアーティスト名で簡単に楽曲を探せます。
もし使いたい曲が見つからない場合は、「楽曲リクエスト機能」を利用することもできます。ただし、リクエストが必ず承認される保証はなく、許諾には時間もかかるため、どうしても使用したい曲があるのであれば、早めに確認・リクエストを行いましょう。
ISUMの利用料金の仕組み
ISUMを利用する際には、楽曲一曲ごとに所定の利用料金がかかります。この料金は、ISUMが私たちに代わって、作詞家・作曲家、アーティスト、レコード会社といった全ての権利者に支払ってくれる「著作権・著作隣接権の許諾料」です。
料金は事業者によって異なりますが、一曲当たり5,000円程度が目安となります。制作費とは別で利用料金の支払いが必要な場合もあるため、ムービー制作を依頼する際には、著作権の申請料が制作費に含まれているのか、それとも別途必要なのかを事前に確認しましょう。
ISUM利用時の注意点
ISUMを利用する際に特に重要なのが、利用可能な音源の指定です。ISUMの楽曲リストでは、曲ごとに利用できる音源が「CD原盤のみ」「配信音源も可」などと定められています。「CD原盤のみ」となっている楽曲は、たとえiTunesなどで同じ曲を購入していても、そのデータを使ってムービーを作成することはできません。市販されているCDそのものを用意する必要があります。
中古CDでも問題ありませんが、レンタルCDは複製が禁止されているため利用できません。使いたい曲がどの音源に対応しているかを、事前にデータベースでしっかり確認するか、依頼する事業者に問い合わせましょう。
ISUMにない曲を利用したいなら「JASRAC」等へ直接申請
「どうしても使いたい、二人の思い出の曲がISUMのリストにない……」そのようなときは、著作権を管理している団体であるJASRACやNexToneへ直接申請するという方法があります。しかし、この方法は非常に複雑で時間も手間もかかる「上級者向け」の方法です。
JASRAC・NexToneとは
JASRAC(ジャスラック/日本音楽著作権協会)とNexTone(ネクストーン)は、日本のほとんどの市販楽曲の「著作権(作詞家・作曲家の権利)」を、作者に代わって管理している団体です。私たちが普段耳にするJ-POP曲の多くは、このどちらかの団体によって管理されています。前述のISUMも、これらJASRACやNexToneと契約を結び、私たちと権利者の間の橋渡しをすることで、手続きを代行してくれているのです。
「演奏権」のクリア方法
まず、結婚式で音楽を流す行為に関わる「演奏権」について解説します。これに関しては、ほとんどの結婚式場がJASRACなどと年間包括契約を結んでいるため、会場が用意したBGMを流す場合は、個別の手続きは不要で、すでに権利がクリアされていることが多いです。
ただし、これはあくまで式場側がCDを再生する場合や、プロの演奏者が生演奏する場合の話です。自分たちが持ち込む自作ムービーに収録されたBGMについては、話が別になり、次の「複製権」の手続きが別途必要になることを、強く認識しておく必要があります。まずは、自分たちの式場がJASRAC等とどのような契約を結んでいるのかを、プランナーさんに確認しましょう。
「複製権」のクリア方法
次に、楽曲をムービーに録音(複製)するための「複製権」の手続きです。これはJASRACなどに直接申請することになりますが、その流れは以下のようになります。
STEP1:楽曲の管理状況を確認
使いたい曲がどの団体によって管理されているか、そして複製利用が可能かを確認します。
STEP2:利用申請を行う
所定の申請書に、利用する楽曲や新郎新婦の名前、式場、ムービーの制作本数など、詳細な情報を記入して申請します。
STEP3:許諾と支払い
申請が受理されると、許諾番号と請求書が発行されます。指定された方法で、著作権使用料を支払います。
STEP4:許諾証明の表示
支払いが完了すると、許諾を得た証として、ムービーの最後に許諾番号や団体のロゴマークを表示することが義務付けられています。これを式場に提出して、ようやく手続きが完了です。
この一連の流れを、個人が行うのは、かなりの労力と時間を要します。
「著作隣接権」のクリア方法
さらに高いハードルとなるのが「著作隣接権(アーティストやレコード会社の権利)」のクリアです。JASRACなどで手続きできるのは、あくまで作詞家・作曲家の「著作権」のみ。CDに収録されているアーティストの歌声や演奏をそのまま使うには、別途アーティストやレコード会社に許諾を得る必要があります。
一般社団法人日本レコード協会が、著作隣接権の権利処理手続きを代行しています。個人で著作権の申請を進める場合は、日本レコード協会への申請も同時に行わなければなりません。申請方法は、日本レコード協会のWebサイトをご確認ください(※)。
※参考:一般社団法人 日本レコード協会.「結婚披露宴等での音源使用について」.https://www.riaj.or.jp/f/leg/bridal/ ,(参照 2025-07-02).
著作権フリー(ロイヤリティフリー)音源を使用するのも方法の一つ
「ISUMにない曲を使用したいが、直接申請はハードルが高過ぎる……」そのようなときに検討したい第3の選択肢が「著作権フリー音源」の活用です。複雑な著作権手続きを回避できる便利な方法ですが、「フリー」という言葉の誤解も多いため、正しく安全に活用するための知識を身に付けましょう。
「著作権フリー」って?
「著作権フリー」という言葉は、実は少し誤解を招きやすい表現です。多くの場合、著作権が完全に放棄されているわけではありません。正確には「ロイヤリティフリー」と呼ばれるもので、これは、一度使用料を支払うか、あるいは無料で、定められた利用規約の範囲内であれば、追加の著作権料を支払うことなく、何度でも自由に使えるという意味のライセンスです。
重要なのは、楽曲ごとに「利用規約」が定められているという点です。その規約をしっかり確認し、遵守することが、トラブルなく利用するための絶対条件となります。
著作権フリー音源のメリット・デメリット
著作権フリー音源には、メリットとデメリットの両方があります。以下の内容を確認した上で、使用するかどうかを決めましょう。
メリット
- 複雑な申請手続きが一切不要
- 無料、または比較的安価で利用でき、コストを抑えられる
- 他のカップルとは違う、オリジナリティあふれるBGMを選べる
デメリット
- 有名なアーティストの曲やヒットソングはない
- 楽曲のクオリティーにばらつきがある
- 膨大な数の曲の中から、イメージに合うものを探す手間がかかる
- サイトによって利用規約が異なり、確認が必要
利用時の注意点
著作権フリー音源を利用する際は、各サイトの利用規約を隅々まで確認しましょう。特にチェックすべきポイントは以下の通りです。
- 商用利用の可否:結婚式での利用が「商用利用」に当たるかどうかはサイトの解釈によりますが、「商用可」の音源を選ぶのがおすすめ
- 加工の可否:曲を短くカットしたり、ループさせたりする編集が許可されているかを確認
- クレジット表記の要不要:作曲者名やサイト名を、ムービーのエンドロールなどに表示(クレジット表記)する必要があることも。規約に従って、正しく表示する
規約をしっかり守れば、著作権フリー音源はムービー制作の強い味方になります。
ムービーの制作方法による著作権対応の違い
BGMの著作権への対応方法は、プロフィールムービーを「誰が」「どのように」制作するかによって変わってきます。ここでは、「自作」「式場提携業者」「外部業者」という3つの制作方法別に、それぞれ何をすべきか、何を確認すべきかを具体的に解説します。ご自身の状況と照らし合わせて、やるべきことを明確にしましょう。
ケース1:「自作」する場合
編集ソフトなどを使って、ご自身でムービー(DVDなど)を作成して式場に持ち込むケースです。この場合、著作権の手続きを自分で行う必要があります。しかし、前述の通り、個人がISUMに直接申請することはできません。そのため、式場に「自作ムービーを持ち込む場合のBGM著作権手続きはどうすれば良いか」を確認することが最初のステップです。
多くの式場では、個人からの申請は受け付けておらず、式場が提携している業者や、ISUMに登録している外部業者に「申請代行」を依頼するように案内されます。その際、代行手数料が発生します。著作権フリー音源を使用する場合は、その旨を式場に伝えましょう。楽曲の利用規約のコピーなどの提出を求められる場合もあります。
ケース2:「式場または式場提携業者」に依頼する場合
結婚式場と提携しているムービー業者に制作を依頼するケースです。この場合、業者の多くはISUM登録事業者であるため、比較的スムーズに手続きが進むことがほとんどです。安心して任せられることが多いですが、念のため以下の点は確認しておくと良いでしょう。
- その業者がISUM登録事業者であるか
- 使いたい曲がISUMのリストで利用可能か
- 著作権の申請料や代行手数料が、見積もりに含まれているか、それとも別途必要なのか
業者によっては、使える楽曲がその業者が独自に用意したリストの中からしか選べない、という場合もあるので、選曲の自由度についても確認しておきましょう。
ケース3:「外部のムービー制作業者」に依頼する場合
式場とは提携していない、ご自身で探した外部のムービー制作業者に依頼するケースです。近年増えている選択肢ですが、業者選びには注意が必要です。最初に確認すべきなのが、その業者が「ISUM登録事業者」であるかどうかです。
これは、ISUM公式サイトにある「登録事業者リスト」で確認できます。もし登録事業者でない業者に依頼してしまうと、著作権処理が正規に行われず、結果的に式場でムービーが上映できないという最悪の事態になりかねません。また前述の通り、ISUM申請料が制作費に含まれているのかどうかも、契約前に確認しましょう。なお、私たちプリンセスネットはもちろんISUM登録事業者ですので、著作権に関しても安心してご依頼いただけます。
これってOK? NG? BGM著作権よくある質問
ここでは、新郎新婦が抱きがちな、著作権に関する具体的な疑問について、Q&A形式で分かりやすく、そして明確にお答えしていきます。「これってどうなんだろう?」という最後のモヤモヤを、ここで解消しましょう。
Q1.市販のCDや購入したダウンロード音源をBGMに使ってムービーを自作するのはOK?
ご自身で購入したCDやダウンロード音源であっても、それをムービーに複製し、結婚式という公の場で上映する行為は「私的利用」の範囲を超えます。著作権の侵害に当たる可能性があるため、無断で使用することはできません。この記事で解説したISUMなどを通じた正規の手続きを踏むか、著作権フリー音源を使用する必要があります。
Q2.Apple MusicやSpotifyなどのサブスク音楽は使えますか?
Apple MusicやSpotifyなどの音楽ストリーミングサービスは、月額料金を支払うことで、あくまで「楽曲を聴く」ことのみが許可されたサービスです。サービスの利用規約でも、楽曲をダウンロードして複製し、ムービーなどに利用することは明確に禁止されています。これは著作権侵害に当たるため、絶対に行わないでください。ISUMの手続きにおいても、サブスクの音源は利用できません。
Q3.著作権が切れているクラシック曲なら自由に使えますか?
作曲家の死後70年が経過すると、その楽曲の「著作権」は消滅します。しかし、注意したいのは、その曲を演奏した演奏家や、CDを制作したレコード会社の権利(著作隣接権)です。こちらは、発表後70年間保護されます。つまり、市販のクラシックCDの音源をそのまま使うには、結局レコード会社の許諾が必要であり、自由には使えません。著作権が切れたクラシック曲を使いたい場合は、著作隣接権も消滅している古い録音を探すか、著作権フリーで配布されている新しい演奏音源を探すのがおすすめです。
まとめ
プロフィールムービーのBGMに関する「著作権」。一見すると、複雑で厳しいルールに見えるかもしれません。しかし、本記事で詳しく解説したISUMの活用法や、正しい手続きの知識があれば、著作権は決して怖いものではありません。不明な点があれば、決して一人で判断せずに、まずは結婚式場のプランナーや、私たちのようなプロの制作会社に相談することが、トラブルを避けるための近道です。
「やっぱり手続きのことが不安……」「専門的なことは、まるごとプロに任せたい」そのようなときは、ぜひ私たちプリンセスネットにご相談ください。ISUM登録事業者であるプリンセスネットが、著作権・著作隣接権の申請を代行して行います。豊富な楽曲リストの中から、お二人の思いにぴったりの一曲を、安心して選んでいただけますので、ぜひご利用をご検討ください。